3、鍵盤手前で感じるアクション全体の慣性モーメントを算出する
前章ではアクション部品個々の慣性モーメント値を算出しました。実際に弾いたときに感じる慣性モーメントの量はそれぞれの値を合算したものではなく、工学の知識に則って計算しなければなりません。
それによると、連動した2つの物体の回転角度の比を二乗したものをかけることによって算出できます。
(図版7) 鍵盤が角度θK回転すると、ウイペンは θW 、ハンマーは θH 回転する。
図版7を見ていただくとわかる通り、鍵盤を弾くと鍵盤が回転運動をして、それがウイペンとハンマーにそれぞれ伝わります。たとえば鍵盤がθK回転したときには、ウイペンは θW 、ハンマーは θH それぞれ回転します。( θは一般に角度を表す記号です。)
そこで、さきほどの理論を当てはめてアクション全体の鍵盤手前での慣性モーメント値を考えてみると、次のようになります。
そこで、さきほどの理論を当てはめてアクション全体の鍵盤手前での慣性モーメント値を考えてみると、次のようになります。
MoI (Whole action at key) = MoI (K) +
MoI (W at key) + MoI (H at key)
= MoI (K) + MoI (W) x
(θW/θK)2 + MoI (H) x (θH/θK)2
ウイペンとハンマーでは、回転する角度の比を二乗してそれぞれの慣性モーメント値にかけています。これで、全体の値が求められるわけですが、角度を測定するのは大変難しいことです。しかし次に説明するやり方を経て、これを長さの比に書き換えることが可能です。長さは簡単に測定できますので、この方が実用的な求め方となります。
MoI (Whole action at key) = MoI (K) +
MoI (W at key) + MoI (H at key)
= MoI (K) + MoI (W)
x (LKO/ LWI)2 + MoI (H) x (LWO/
LHI x LKO/ LWI )2
ここで、LKOは鍵盤の回転中心からキャプスタンスクリューの頂上中心までの距離、LWIはウイペンの回転中心とウイペンヒール下端のキャプスタンスクリューとの接点の中心までの距離、LWOはウイペン回転中心とジャック・ローラーの接点までの距離、LHIはローラー・ジャック接点からシャンクの回転中心点までの距離です。
鍵盤がθK動いたときにキャプスタンスクリューはLKO x
θK動き、ウイペンヒールはLWI x
θW動きます。キャプスタンスクリューとウイペンヒールは同じだけ動いているわけですから次の式が成り立ちます。
LKO x θK = LWI x θW
これを書き換えて比の形にすると
θW/θK
= LKO/ LWI
となります。ですので、ウイペンの鍵盤手前で感じられる慣性モーメントは次の式によって求められるわけです。
MoI (W at key) = MoI(W) x (θW/θK)2
= MoI(W) x (LKO/ LWI)2
つまり測定困難な角度の比の代わりに、測定可能な2つの長さの比によって計算が可能になります。
では、次にハンマーの鍵盤手前における慣性モーメントを求めてみましょう。
先に書いた通りハンマーが鍵盤手前で感じられる慣性モーメントの値は次の通りでした。
MoI (H at key) = MoI (H) x (θH/θK)2
= MoI (H) x (θH/θW x θW/θK)2
θH/θKはθH/θW
x θW/θKと書き換えることができ、θW/θKはすでにLKO//
LWIで求められることを示しておきました。ここではθH/θWを考えていきます。
ウイペンとハンマーの接点はジャックとローラーの接点で、鍵盤がθK動いたときにジャック先端ははLWO x θW動き、ローラーはLHI x θH動きます。ジャックとローラーは同じ距離動いているわけですから次の式が成り立ちます。先ほどと同じ考え方です。
LWO x θW = LHI x θH
式を変形し比の形で表すと
θH/θW = LWO// LH
となります。ですので、ハンマーの慣性モーメントが鍵盤手前で感じられる量は、
MoI (H at key) = MoI (H) x (θH/θK)2
= MoI (H) x (θH/θW x θW/θK)2
= MoI (H) x (LWO/ LHI x LKO/ LWI
)2
と、4つの計測可能な距離の日に置き換えることができるわけです。念のため書き添えておきますと、この値はハンマーがウイペンと鍵盤を通じて鍵盤手前で感じられるものですので、ウイペンと鍵盤の慣性モーメント分は入っていません。
さて、これで、アクションの3つの構成部品、鍵盤・ウイペン・ハンマーの鍵盤手前で感じられる慣性モーメントの値を算出することができました、アクション全体の慣性モーメント値は次の通り3つの値を足すことによって求められます。
MoI (Whole action at key) = MoI (K) +MoI
(W at key) + MoI (H at key)
= MoI (K) + MoI (W) x
(LKO/LWI)2 + MoI (H) x (LWO/LHI
x LKO/LWI)2
もう一度計測する距離の詳細を書いておきましょう。
-
LKOは鍵盤の回転中心からキャプスタンスクリューの頂上中心までの距離
-
LWIはウイペンの回転中心とウイペンヒール下端のキャプスタンスクリューとの接点の中心までの距離
-
LWOはウイペン回転中心とジャック・ローラーの接点までの距離
-
LHIはローラー・ジャック接点からシャンクの回転中心点までの距離
です。
ここで具体的な数値をあげてみます。あるスタインウェイDの真ん中のC音のデータです。
ハンマーの鍵盤手前における慣性モーメント値は202,577 gcm2でした。その詳細を書くと、HSWが10.9g、距離が13cmで、単体での慣性モーメントは10.9 x 132、そして(θH/θK)は10.5だったので、鍵盤手前での値は10.9 x 132x(10.5)
2です。これを計算すると上記の値になります。
ウイペンの鍵盤手前における慣性モーメント値は4,332 gcm2です。これはウイペン単体の慣性モーメント値756 gcm2
に角度比 (θw/θK)
2.14の二乗をかけて求めた値です。
鍵盤の慣性モーメント値は50,463 gcm2でしたので、全部を合計すると257,311 gcm2となります。すなわち、この音のアクションはこれだけの慣性モーメント値を持っているということになります。
(以下続きがありますが、しばらくアップいたしませんのでご了承ください。内容としては当ブログの少し前の投稿記事、スライドショー「タッチを変える」のPage20以降がそれに相当しますので、そちらをご覧ください。)
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