ウイペンの慣性モーメントを求めます。ウイペンはハンマーほど単純な構造ではないので、分解・切断して部分ごとに値を求め合計します。後ほど分かってきますがウイペンはアクションの3つの部品の中で一番タッチの重さにかかわりが少ないので、あまり重要ではありません。
また、ハンマーや鍵盤と違い一台のピアノの中で個々の重さの違いがほとんどないので、サンプルの数値さえ持っていれば、同じメーカーの同じ仕様のアクションならば、どの音域でもそのまま数値としても使って良いと思います。いろいろな種類のデータを得るには、多種類のスペアのウイペンを分解・測定するのが必要になるでしょう。
さて、写真は工房にあったスタインウェイの古い部品です。センターピンを外して分解できるものは分解して、ウイペンレバーとレペティションレバーはそれぞれ4つと2つに切断しました。フレンジはシャンクと同じく動かない部品なので、慣性モーメントには関係ありませんから取り除いてあります。合計8つの部分に分けました。
それぞれの部品の重心をチェックして印をつけます。個々の質量を測定し、回転軸(ウイペンセンターピン)から重心までの距離を測定した上で、例の通り計算して行きます。すなわち、個々の部分について質量×距離の二乗の数値を求めた後、合計します。このウイペンの値は756gcm2 でした。
もう一つの例として、WNG社製のウイペンが手元にあったので同じように測定しました。このウイペンは705gcm2 で、スタインウェイのものより約7%小さい値でした。
先日のシドニーのコンベンションにはこれを設計したブルース・クラーク氏が講師の一人として来ていて、私もその講義を聴く機会がありました。その講義の中でこのウイペンが慣性モーメントの影響を最小限にするためにできるだけ質量を減らし、しかもなるべく回転軸に近くなるように工夫したと述べていました。全体にかなり大胆な肉抜きが施されているのがわかりますし、特にレペティションレバーの支点になる部分の形状にはそれが良く現れています。
Wessell, Nickel & Gross 社製コンポジットウイペン
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