2016年11月20日日曜日

スタインウェイDのチューブラーレール交換


今回の仕事のメインはスタインウェイDモデルでの亀裂の入ったチューブラーレール交換と錆びて膨らんできた鍵盤鉛の交換でした。ピアノ自体はかなり古く、しかも30年程度前にすでにリビルドしてあります。(スタインウェイロンドンで行ったものだと聞いていますが、質はイマイチな感じです。)

鍵盤鉛がとても多く近接しすぎて割れていたりもしていました。ハンマーは肉厚がありテーパー加工も少なく重めの感じでした。

まずは修理部分から。穴の開いていないレールを購入してあったので、オリジナルのレールに合わせて穴の中心位置を出しドリルで加工します。ボール盤に広い作業台を固定した上でドリルの中心を正確に合わせます。写真は座繰り加工の様子。


チューブラーレールの断面は下の写真のような形状なので、2本の細いレールを使ってレールが揺れないようにし、また加工穴が垂直になるようにします。


工房の隣が鍛冶屋さんなので、穴あけの済んだレールと位置出しジグを持ち込み交換加工をお願いしました。古いレールを取り去って、新しいレールを溶接してもらいます。

レール交換が終わったら、フレンジの載る部分をきれいにしておきます。

ハンマー+シャンクは元のものを使いますが、装着前にハンマーストライクウエイトの測定をしました。低音が#10~11、中音#9~11、次高音#11~12、高音は#13~でしたので、加工限界量を考慮に入れながら目標ラインを決めてテーパ加工を行いました。最終的に低音#10、中音#9~11、次高音#11~12、高音は#13での仕上がりです。今回は鍵盤鉛の量を減らすのが主目的なので、さほど厳密な加工ではなくかなりあったばらつきを低めに揃える程度にしました。

ストライクレシオとギアレシオを一段下げるためにウイペンヒールへ布ペーパーを挟み込みました。ウイペンの作業ついでにレペティションスプリングの溝にべったりグリス状のものが塗られていたのでそれもきれいにしておきます。

シャンクを組み込み間隔や走りを粗調整、ウイペンを組み込みこちらも同様に粗調整します。今回の修理はアクションだけを持ち帰っているので、弦合わせはピアノに組み込んだ状態で仕上げます。アクションスプレッドも確認しましたが、おおむね1mm以内のずれで収まっていました。

整調をします。レールの位置がずれているせいでかなりの作業量になりました。

鍵盤はアクションの作業に並行して同僚にお願いしました。古い鉛をすべて抜いて割れた木部を修理、不要になる鉛穴は木目方向を合わせたプラグを埋めて接着、鍵盤鉛調整に向けて準備完了です。

バランスウエイト基準の鍵盤鉛調整をしました。コンサートピアノは鍵盤が長く慣性モーメントが大きすぎるので鉛重心位置を中央よりにしたいところですが、今回は元の鉛穴を有効活用したいということもあり低音・中音では手前の大きい鉛一つはそのまま入れて残りの分を中央めに配置しました。それでもレシオを小さくしたこともあり、もともと6~7個入っていたあたりでも最高4個で済ますことができました。

事前の作業が終わったので、会場に持ち帰りピアノでの作業。弦合わせなどかなり大変でしたが、最終仕上がりは満足いくものとなりました。

タッチウエイトマネジメントを利用しての仕事の一種として紹介しました。今回は平衡等式や表計算も使用せず、まずは軽くすること・鉛を減らすことを前提に作業しました。ハンマーストライクウエイトを調整するためにスマートチャートのみ使用しました。ストライクレシオも計算していません。これまでの経験でスタインウェイの数値は把握できていましたし、タッチウエイトは補助的な仕事だったのでこれで十分と判断しました。



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