2015年10月30日金曜日

無料ダウンロードファイル追加のお知らせ

ジェンキンピアノサービスのウェブサイトから無料ダウンロードできるファイルが増えました。

タッチウエイトに関するファイルは次の通りです。
1、APTTAコンベンションでの私の講義に使用したスライドショーのPDFファイル「アップライトアクションのタッチマネジメント」(英語)
2、アップライトアクションのタッチウエイトマネジメントチェックリスト(英語。日本語版は近日中にアップロード予定です。)
3、ピアノテクニシャンズジャーナルに掲載の私の論文グランドアクション編(英語)
4、同アップライトアクション編(英語)

もう一つデービット・ジェンキンによる表計算ファイルも載せています。これはパウレロ弦XM・0・1・2を使用した場合や弦の直径を変えたときなどの断線率の変化を確認できます。興味ある人はどうぞご覧になってください。

ユーザーネームとパスワードはyuji@jenkinpiano.co.nz までお問い合わせください。

ダウンロード可能な技術者向けのページはこちらです。
http://www.jenkinpiano.co.nz/services/for-technicians/

2015年10月23日金曜日

APTTA コンベンション in パース2015

今回のコンベンションは火・水・木曜日の開催となったので、月曜日に移動しました。


ホテルはインド洋を望むリゾートホテル。こんな所に泊まれるのは2年に一回のコンベンションだけです。


火曜日の午前中は役員のみの会議で、私はNZ協会を代表して入会試験官会議に出席しました。午後には全体総会に出席しました。

オーストラレージア協会の協会誌はコンベンションの時のみに発行されるので、この最新号は2年ぶり。

この中にプログラムも印刷されていて、私の出番は講義初日水曜日の午前中でした。


講義は40名弱の参加者を得て順調に進み、講義後も質問に答えました。

下の写真は昼食休憩中の大ホールの様子。一部の講演はここで行われましたが、私の講義も含めてほとんどの技術的な講義は別の小さな部屋3つに分散して行われました。


講義2日目の木曜日は朝一でヤマハの進藤さんによるCFX+ディスクラビーアの講義でした。進藤さんとはヤマハ勤務時代以来の知り合いですが、前回ニュージーランドで会って以来、20年近く振りの再会でした。

夜はフォーマルディナーで今回のコンベンション全日程が終了でした。

一晩明けた今日は都心に近い安めのホリデーアパートメントに移動し、来週の27日まで有給休暇と週末を利用してパースの観光をします。

2015年10月17日土曜日

スタインウェイのコンサートピアノのタッチウエイトマネジメント(後半)

HSW調整奇数鍵終了取り付け後の様子です。一本おきに調整されているので幅の違いがわかると思います。ハンマーフェルトの裾の角は隣と擦れないようにそぎ落としてあります。擦れているとタッチウエイトにして数グラムの抵抗になることもあります。

偶数鍵のHSWは奇数鍵とほぼ同じ傾向を持っていました。オリジナル(黒点)とHSW調整仕上がり後(赤点)のスマートチャートを次に示します。中音は目標をやや高めの設定にしましたが、オリジナルのハンマーが重すぎるものはそこまでもたどり着けませんでした。弾いた感じでは全く周りのとの差はないので、これで良しとしました。


HSW調整後、奇数鍵と同様の加工をしてアクションに取り付けました。
鍵盤バランスブッシングクロスは半カットし鍵盤に接着。ウイペンヒールには今回180番の布ペーパーを細く切って使ってみました。これまですべすべの厚紙を使っていましたが、布ペーパーは厚さも良好でずり落ちる心配もありません。もちろんサンプルでもその効果を確認しています。

鍵盤鉛は手前に入っていたものを事前に取り除いておきました。

バランスウエイトは最低音部46gから最高音部で38gまで基準値を変化させながら鍵盤鉛調整をしました。中低音域はやや重めのバランスウエイトで慣性モーメントを小さめに、次高音と高音域はバランスウエイトを低め、慣性モーメントをやや高めにすることを意識して調整しました。

これでフロントウエイトがシーリング値よりおおむねマイナス3g(高音)からマイナス8g(最低音)まで達成できました。鍵盤鉛はそれらの重心が鍵盤手前側の中央よりややバランスピン側に来るように気を付けながら配置してあります。また、隣同士の鍵盤でも鉛の位置関係をチェックして滑らかな慣性モーメントのつながりになるように意識しました。ハンマーストライクウエイトも調整してあるので、タッチの揃いはかなり良いはずだと思っています。私の弾いた感じでは以前よりかなり軽くなった感じがしました。

同僚に試弾してもらったところ一人は軽いのは良いが手ごたえが今一つ足りないかな、という感想、もう一人はこれでも少し重めに感じる、との感想でした。

納品先がかなり遠いので、検品にはNZで著名なオークランド在住のピアニストに依頼して試弾してもらうことになっています。どんな感想をいただけるのか楽しみです。



2015年10月2日金曜日

スタインウェイのコンサートピアノのタッチウエイトマネジメント(前半)




先月の末からスタインウェイのコンサートグランドピアノ、モデルDのタッチウエイトマネジメントを行っています。5年ほど前に大修理を施されているピアノですが、今度新しいオーナーに転売され遠くに行くことになりました。販売店の要望で最良のコンディションにセッティングします。修理時の仕事自体は同僚がやったのですが、その当時はまだタッチウエイトに関してまだ手探り状態だったので、私からは助言をせず通常の鍵盤鉛調整だけしていました。しかし改めて出会うことができたので、これを機に良好なピアノをどこまで引き上げることができるのか挑戦することにしました。特にタッチウエイトの再調整と整音・弦のセッティングなど試す良い機会だと考えています。

サンプルの測定から、スタンウッドの平衡等式と3要素関連表からバランスクロスのカットとウイペンヒールでの接点移動が必要と判断しました。実際にサンプル音にそれらの加工を施してからストライクレシオを測定したら良好な結果で、アクションレシオも下がりすぎることなく、通常の整調の範囲内で収まることも確認しました。そこでまず、奇数鍵のハンマーを外しハンマーストライクウエイトを測定しました。

傾向線では指標9から指標11の間でばらついています。このグラフからいくと指標10から11の間では調整可能ですが、今回は指標10付近に合わせることにしました(実作業では鉛筆で概略線を入れて調整時の目安としています)。現状でもそのレベルの重さの音は多くあり、十分な音量と音色が得られることが想定されます。そして全体にハンマーを軽めにできるので、バランスウエイトは重め(42gくらいかな、と考え中です)に取った上で慣性モーメントをなるべく小さめに設定すれば演奏会用の楽器として適当であろうと判断しました。

こんな感じで測定しながらスマートチャートとデータ表に記入していきました。(後ろに写っているアクションには残り半分のハンマーがついています。)


ハンマーストライクウエイトを測定した後、下針を刺して、ハンマーで打弦点あたりを叩いて、HSW調整に入りました。減らすものはテーパ部で大方減量し、それでも足りないものはテール部加工と穴あけでなんとか赤色のところまでたどり着きました。軽すぎる7~8鍵はハンマー鉛を入れて調整して赤色に合わせています。今日は残り半分のハンマーの測定をしましたが、ほとんど同じ傾向で同じようにばらついていました。それらは来週に加工していきます。