2015年8月29日土曜日

カワイKG5Dのハンマー交換

今月の初めからハンマー交換の仕事をしました。ピアノの先生宅のカワイKG5D、数年前に中古で購入したものの特に次高音が薄っぺらでタッチも軽いしなんとかしたいとのことで始まりました。

チェックリストと平衡等式の分析ではバランスウエイトがサンプル音で低音46g、中音40g、次高音46g、鉛は手前に2~3個入っていました。ハンマーストライクウエイトは下のスマートチャート青色の点。低音域ではハンマーウッドの密度が違うせいで部分的に重かったり軽かったりしています。中音は軽めで次高音から高音は重めに推移しています。ある意味、HSW調整されていないハンマーではよくあるパターンと言えます。

青色の点はオリジナルのHSW、赤色の点は新ハンマーHSW調整後

用意したハンマー(アーベルの標準品、緑色の点)も同様の傾向を示していましたが、HSW調整をして赤い点まで持っていきました。中音部は軽かったので隣との接触を避けるためのほんのわずか(0.1g程度)のテーパ加工と0.1g以下の最低限のテール加工のみを施しています。低音と高音は大きくテーパーを削り込んてテールで微調整しています。最高音はアーク加工も含めた最大限の加工をしましたが指標10以下には届きませんでした。加工中にそれは見えていたので次高音は中音と高音をつなぐように調整しています。ほとんどは減量方向での調整でしたが、低音と中音・次高音で12本程度ハンマー鉛による増量調整を行っています。時間の都合上最低音の微調整はせずに終わらせました。

緑色の点は穴あけ前の生ハンマー+標準シャンクストライクウエイト、赤色の点はHSW調整後


顧客が重めのタッチを希望していたため、もともとのストライクレシオ約6.0はそのままにしたのでレシオ系の調整はしていません。バランスウエイトは中音・低音46g、次高音・高音45gに設定しBW基準の鍵盤鉛調整を行いました。ただし、演奏上のことを考え慣性モーメントは下げる方向に持っていこうという目的のため、一番外側の鉛は事前にすべて抜き、バランスピン寄りの鉛重心が中央付近でBWを達成できる鉛詰めパターンにしました。HSWを中音に合わせて全体に低めに設定したので、ハンマー由来の換算慣性モーメント値も下がり、鍵盤の鉛も減らせて鍵盤自体の慣性モーメントも減らすことができました。

納品後の試し弾きでは音もタッチもかなり良くなったのでとても気に入ってもらいました。タッチの検査中にトレモロやpp、ffなどいろいろ試していましたが、それらのどれも反応が良く、満足している様子が伝わってきました。彼にとっては軽すぎはしないけれども重くも感じないそうでしたが、生徒にとってはこれで丁度良いかなとのこと。BW45g以上だとスタンウッドの基準では重めの限界ですが、タッチの強いこの弾き手にはその辺で丁度良く、そして慣性モーメントが小さいので弾き心地が良く、全く重すぎとは感じないのだと思われます。

ちなみに、整音は弾力を大きく出して基音を鳴らすように心がけ、調律は出だしの発音を豊かにして音色を出すようにし、そしてタッチ感と音色の向上のためにフェルト製のフロントパンチングクロスを使用しました。

蛇足ですが、今回アーベルのカワイ向けシャンクを利用しましたが、送られたきたシャンクがカワイオリジナルのシャンクとセンターの位置が高さ方向に1mm違ったので、ボアレングスを1mm縮め、打弦位置の確認を慎重に行いました。アクションだけ持ち帰っての作業でしたので、特に気を使いました。また、フレンジのスクリュー穴からテールまでの寸法も1mm長すぎたため、バンドソーに治具をセットし、レールに合うように注意深く加工をしました。


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