このアクションはベヒシュタインで、鍵盤とウイペンがキャプスタンとヒールではなく連結棒によってつながれています。今回の仕事は部品交換なしでタッチウエイトを軽くする仕事です。少し前に別な技術者によりハンマーとシャンクが交換されているのですが、それ以来タッチが重くなってしまって弾きづらくなったので何とかして欲しいとの依頼です。典型的なタッチウエイトマネジメントの仕事といえましょう。
ハンマーはテーパー加工もテール加工もされておらず、いかにも重そうです。シャンクローラー距離は17mmでこれは問題ではなさそうです。鍵盤鉛は手前に1個入っているだけでオリジナルのままと考えられます。アクション各部のフリクションはウイペンセンター以外問題ありませんでした。
オリジナルの状態での計測では低音のサンプル音でダウンウエイト86g、バランスウエイトも66gを超えていました。中高音では重めには違いありませんでしたが、低音ほどではありません。ハンマーストライクウエイトは下図のような分布で指標5から9の範囲でばらついており、ストライクレシオは6.0ちょいでした。
ストライクレシオを0.4程度下げてハンマーストライクウエイトを低め(指標5~6)に揃えると、バランスウエイトを標準の38g程度で鍵盤フロントウエイトをシーリング値マイナス10g程度に下げることができるという予測が得られました。慣性モーメントはハンマーストライクウエイトを低めに揃えることとギアレシオを下げることで十分下がって揃うので、鍵盤鉛位置はさほどバランスピン寄りでなくとも良好な動きを得られるでしょう。
このアクションのもう一つの問題点は、ハンマー植え込み角度でした。ベヒシュタインの開き目の角度ではなく90度になっています。その影響を気にせずに90度穴あけ済みの交換部品を使ったのでしょう。しかもハンマーが長すぎて、バックチェックに咥えられる際にかなり深めに入ってしまいます。今回ハンマー交換は視野に入っていませんので、ストライクウエイトを軽くするためもありテールを少々切ってしまうことにしました。バックチェック高さを下げるにも限界がありますので、ハンマーを短くした上で必要な微調整は後でやることにします。同様にハンマーテールも平行に削られていませんでしたので、どちらにしてもテールも加工しなければなりませんので。
今回ピアノ本体がなくハンマーは全部外したいので、アクションと整調用鳥居の位置関係を記録した上で弦跡を写し取りました。アクション返却後に大ボスが仕上げに行くので少しでも良好な状態にしておく必要があるからです。こうしておけば写真のようにハンマー合わせ位置がずれているハンマーでも粗調整時にある程度きちっと合わせることができます。
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