2014年6月15日日曜日

タッチの重さ調整に慣性モーメントを取り入れる

この文章はアメリカの業界雑誌「ピアノテクニシャンズジャーナル」の昨年(2014年)の9月号と10月号に投稿したものです。内容は昨年シドニーで催されたAPTTAコンベンションでのプレゼンテージョンの一部分になります。プレゼンテーションの内容は「タッチを変える」シリーズで紹介していますのでそちらをご覧ください。

最近アップライトピアノのタッチの重さ調整に関する記事を別ブログでアップし始めています。そちらは具体的な方法を主眼に説明しているので、慣性モーメントなどの説明は省いています。ただ説明が全くないとやはりわからないと思うので、説明を載せてあるこの記事を掲載することにしました。どちらにしても基礎的な考え方は同じですので、理解した上で日常業務に生かしていけると、グランドピアノでもアップライトピアノでも役に立つと思います。


1、タッチの重さ調整に慣性モーメントを取り入れる
年から今年にかけて、アメリカのピアノ調律師協会発行の雑誌「Guild Journal」に、ピアノアクションにおける慣性モーメントの説明とその利用法についていくつか論文が発表されました。それらの記事によってピアノアクションにおける慣性モーメントのコンセプトと理論的な説明がわかりやすくなされました。
私もまた、ここしばらくこの課題について考えてきました。慣性モーメントの考え方を取り入れることによってタッチの重さ、それも運動中の手ごたえまで調整可能になります。私の慣性モーメントへのアプローチは前述の記事と違い、自分で計測し計算でき、自分でタッチの改良に役立たせることができます。このやり方はこの議論に一石を投じることができるのではないかと考えました。
私のやり方では、アクションの個々の部品すなわちハンマーアッセンブリー・ウイペン・鍵盤の3つに対して、物理学で定義された慣性モーメントの求め方を簡便な方法で応用してその値を求めるというものです。
物理学の理論書を調べると次のような定義が見つかります。
ある物体の慣性モーメントはその限りなく小さい部分の質量と与えられた回転軸からの距離の二乗の積をその物体全体に積算したものである。
私のやり方は先の論文に記述された方法よりも本来の定義に見合っています。たとえば、ひとつの論文では重心位置を回転軸として角加速度を計測して、それを本来の回転軸に換算することによって求めていますし、もう一つの論文では、慣性モーメントの意味合いを考えた上で、鍵盤に与えられる加速度と鍵盤鉛の関係に注目し、特定の重心位置を持つ鉛の配置を提案しています。また別の論文では工学的に解析してグランドピアノのアクションの特性を追求していました。
どの論文でも紹介されている慣性モーメントの算出方法は一般的に言って不可能ではないものの、調律関連業務を日常の仕事としている調律師には難しいやり方です。測定機材が特別に必要となりますし、測定方法には工夫が必要とされます。
私の提案するやり方は純粋に上記の定義に則り、アクション部品を小さいいくつかの部分に分けた上で、慣性モーメントの値を計算して求めます。一般の技術者でも特別な器具を使わずとも計算可能な方法なのです。その上でそれをどのようにタッチの改善に役立てられるのかも十分普通の技術者が応用できる位の簡便さであると考えます。

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