2014年6月16日月曜日

ハンマーアッセンブリーの慣性モーメントを求める

それでは、そのやり方を紹介していきましょう。

2、各アクション部品の慣性モーメントを算出する
(1)ハンマーアッセンブリー


(図版1)慣性モーメントを求めるために4分割されたハンマーアッセンブリー
図版1は4つの部分に分割されたハンマーアッセンブリーの写真です。シャンクセンターピンを軸として回転運動するのでセンターピンから4cmごとに切断してあります。4つの部分のそれぞれの中心位置はセンターピンから2cm、6cm、10cmそして13.2cmになります。理論上は限りなく細かい部分に分けて計算していくのですが、私たちが利用しようとしているピアノアクションの慣性モーメントは、タッチの軽い重いを調整する目的で、ある程度の数値が得られれば良く、理論的に厳密に計算する必要はありませんのでこのような計測方法を取りました。なお、シャンクフレンジはレールに固定されている部分で、動く部分の動的抵抗として求める慣性モーメントには関係ありません。
先の例で慣性モーメントを求めてみます。計算式では慣性モーメントを英語での頭文字MoI (Moment of Inertia)を使って記述することにします。それぞれの部分の質量をH1H2 H3H4 として、
MoI (Hammer) = H1 x (2)2 + H2 x (6)2 + H3 x (10)2 + H4 x (13.2)2
実際にそれぞれの部分の質量を求め、計算するとこの例のハンマーは1616 gcm2 と計算されました。通常物理学ではKgm2 を単位として使いますが、ピアノのタッチに関して利用する際はgcm2 を使うことを提案します。この単位が最も私たちの使用目的に合った数値が得られるからです。
さて、図版1の例ではシャンクを切って値を求めました。あれ、それじゃあ、と疑問に思った方が多いかと思います。もちろん、このやり方では日常業務に使用できません。せっかく交換したシャンクを切るなどもってのほかです。そこで、通常使用する計測法として図版2で示したやり方を利用します。ハンマーストライクウエイトにシャンクフレンジセンターからハンマーウッド中心線の距離を二乗したものをかけてそれを慣性モーメントの値とするのです。
ハンマーストライクウエイト(HSW)はアメリカの技術者デービット・スタンウッドの提唱するタッチデザインを構成する要素の一つで、図版2のように測定します。垂直にフレンジを立ててジグのエッジにセンターピンの中心が来るように載せ、ハンマーテールの下に置いたデジタル秤で重さを読み取ります。
図版1と同じハンマーをこのやり方で測定すると1,720 gcm2という数値が得られました。先ほどの計測より6.5%大きい値です。どちらにしてもこちらのやり方でしか現実的に仕事ができませんので、このギャップはギャップとして認識しながら、今後の測定値はすべてこちらのやり方で測定したものを使います。このやり方のメリットは、シャンクを切らなくて良い、というのは第一ですが、このHSW値はスタンウッドのやり方を利用する場合どちらにしても測定しなければならないものですし、ハンマーアッセンブリーのほとんどの質量はシャンクではなくハンマーにありますので、効果的なやり方なわけです。


(図版2) 慣性モーメントを算出するためにHSWとシャンクフレンジセンターとハンマーウッド中心線の距離を利用する。

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