2014年6月22日日曜日

中村フロントウエイト計算表と慣性モーメント計算表

5、中村フロントウエイト計算表と慣性モーメント計算表
私のやり方には2つメリットがあります。一つ目は一般的な技術者でも使える技術であるということです。実験をしないと測定できないというのではなく、こつこつと重さを量り長さを測ることによって求めることができます。特別な機器や高度な知識を必要とせず、多少の初等数学の知識と表計算ソフトの使い方を知っていれば使いこなしてその恩恵を受けることができます。
もう一つはスタンウッドの公式と合わせて使うことによってアクションの改善点をあぶり出せるので、改良した際に得られるであろう結果を作業をする前に確認できるということです。これから紹介していく計算表に測定したデータを入力した上で、求めるタッチに向けて自分で数値を変えながらシミュレーションすれば良いのです。コンピュータ内で求めるタッチを作業前に具体的に計画することができるわけです。しかもその結果ではスタンウッドの示した静的なアクションバランスから見たタッチウエイトと、動きにくさの指標である慣性モーメントの値の変化を同時に見ることができます。作業前にどのように変化するのを知っていれば作業にがスムーズに運び失敗を犯すことが少なくなります。これは作業効率上非常に重要なことです。それでは、具体的にどのようにやるのか見ていきましょう。

(図版9) 鍵盤鉛の位置の違いでフロントウエイトと慣性モーメント値がどのように変化するのか
まず、鍵盤鉛の位置によってフロントウエイトと慣性モーメント値は変化します。図版9を見てください。3つの違うパターンで鍵盤鉛を入れた鍵盤モデルが書かれています。シンプルにするため鍵盤自体には重さがないと仮定します。右端の三角マークが支点になっていて、鍵盤右側は省いてあります。この例3つともフロントウエイトは同じ16gですが、慣性モーメントの値はそれぞれ違っています。
フロントウエイトは鉛の重さに(支点と鉛の距離÷支点とウエイト測定点)の値を掛けて出すことができます。たとえば例1では比較的鍵盤の端に近い20cmのところに一つ鉛が乗っていて、その重さ20gはウエイト測定点では20x(20÷25)=16gに感じるというわけです。この場合の慣性モーメントは20 x (20) 28,000 gcm2となります。
例2では、比較的中央に近いところに大小1つずつの鉛が乗っています。ていねいに計算すればわかる通りフロントウエイトが16gで例1と同じ値ですが、慣性モーメントは5,700 gcm2となり、例1よりも29%少なくなっています。
例3は中心に近いところに大きな鉛3つが乗っています。これも計算すればわかる通りフロントウエイトが16g、慣性モーメントは2,920 gcm2で、例に比べて64%も減らすことができました。
タッチはこの3つの例でそれそれ異なります。ゆっくり、あるいは小さく弾いた時は同じような重さを感じるものの、普通にか強めに弾いた時には例1は動きが重く感じ、それに比べ例3は軽く感じるのです。もちろん、これらのどれが一番良いのかはここではわかりません。例1が丁度良いと感じるかもしれませんし、例3が良いと思うかもしれません。ここでは、鉛の位置あるいは慣性モーメントの大きさによって違うタッチになるのだ、ということをご理解いただければ結構です。
実際の鍵盤では鉛だけでなく鍵盤部の重さも考慮に入れなければなりません。特に注意して欲しいのは、鍵盤の後ろの重さはフロントウエイトを軽くし、慣性モーメントは大きくする、という事実です。図版10で示したように鍵盤はバランスピン部を支点としてシーソー運動します。フロントウエイトを考える場合鍵盤後ろの重さは下向きにかかるので、鍵盤前部では上に持ち上げる力として働きます。フロントウエイトは鍵盤前側が下に下がろうとする力ですから、それを軽減するような効果を持つわけです。
一方慣性モーメントはバランス位置を回転中心として鍵盤全体が回転する際に生じる動的抵抗ですから、鍵盤手前も後ろも一つの回転体として扱うこととなり、鍵盤後ろの慣性モーメントも全体の一部と考え加算することになるわけです。

図版10) 単純化した鍵盤のモデルで鍵盤後ろの重さがどのようにフロントに働くかを示す。
私の開発した慣性モーメント計算表は、ここの部分の重さと距離を入力していますが、それらのデータを利用して慣性モーメントも求められますし、同時にフロントウエイトを求めることが可能です。
図版11に中村フロントウエイト計算表を掲げました。スタンウッド方式によって実際に測定した値が1列目に、中村慣性モーメント計算表を利用して計算した値が2列目に表示されています。数グラムの差がありますが、これは問題ではなく、後で説明するとおりこれを勘案してタッチのセッティングに算入していきます。


(図版11) 中村フロントウエイト計算表


次の投稿記事ではスタンウッド方程式の計算表を使ってタッチの重さをシュミレーションします。

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