2014年6月23日月曜日

スタンウッドの公式計算表を利用してバランスウエイトを決める

6、スタンウッドの公式計算表を利用してタッチを調べ、バランスウエイトを決める。
私の開発したフロントウエイト計算表と慣性モーメント計算表、そしてスタンウッドの公式計算表を利用してタッチを調べ、その状況に応じた可能な作業を想定してコンピュータ内でセッティングしてみることが可能です。それによってどのような効果が上げられるかを事前に知ることができるわけです。これらの計算表を使うことによってスタンウッドによるタッチのの指標であるバランスウエイトと動的なタッチの指標である慣性モーメント値をチェックできるので、より広い視野でタッチをセットアップすることが可能です。
具体的に説明するため例をあげてみます。あるホールのコンサートピアノのタッチを変更した作業で、単純にするために真ん中のC音のみのデータで説明しています。事前のタッチウエイトはダウンウエイトアップウエイト共にスタインウェイの基準値に適合していたものの、もうちょっと軽くして欲しい、もうちょっと動きを軽快にして欲しい、との要望で目標を「バランスウエイトと慣性モーメントをバランスを取って低くする」と設定しました。

まず、スタンウッドの公式計算表を使って何ができるか、どのくらいの効果があるのかを検討します。図版12を見てください。


(図版12) スタンウッドの公式計算表 (スタンウッド、 2000)
この表を使うとハンマーストライクウエイト、ストライクレシオ、そしてバランスウエイトを変更したときの効果がわかります。(スタンウッドの公式やスタンウッド方式の説明は当ブログの以前の投稿で説明していますので、そちらをご覧ください。)
a列には作業前のデータが入力してあります。ダウンウエイトが51g、アップウエイトが29g、バランスウエイトが40g、フリクションは11g、フロントウエイト28.9gなどとなっています。このデータを見ると決して悪い数値ではないのですが、要望ではもう少し軽く、動きやすくでしたので何かできるところを探します。
タッチウエイトの指標であるバランスウエイトが40gです。これは標準的な重さと言ってよいのですが、要望を踏まえて38g程度に下げることを目標にします。
重さや動きやすさはフリクションによって左右されることが多いのですが、11gのフリクション値はほど良い抵抗のある満足できる値ですので、これをどうにかすることはできません。これを小さくしてしまうとスカスカのタッチになってしまう危険性があります。
フロントウエイトは28.9gで、スタンウッドの示すシーリング値30gよりは小さいものの、これを小さくできれば動きがもっと軽くなるはずです。
ハンマーストライクウエイトは10.9g、スタンウッドによる分類ではやや重めの指標10になっています。これをやや小さくすることでタッチを軽くでき、バランスも良くなりそうです。
アクションストライクレシオは5.5、普通です。小さくすることは可能な範囲だと思います。
では、順番に見ていきましょう。まず、ハンマーの重さを0.4g減らしてみたらどうなるかやってみましょう。図版12のb列を見てください。入力した後はストライクレシオの数値が変わってしまいますが、本来ハンマーの重さが変わっただけではストライクレシオは変わりません。何が変わるかと言うとバランスウエイト(ダウンウエイトとアップウエイトの組み合わせで)が低くなるのです。ですので、ストライクレシオが先ほどと同じになるようにダウンウエイトとアップウエイトの値を変えていきます。この時フリクションレベルも変わらないはずですので、それも注意します。アクションレシオが5.5のときにHSWを0.4g少なくするのですから5.5.x 4で、約2gバランスウエイトが低くなるはずです。(計算表上で変更するのはダウンウエイトとアップウエイトを2gずつ。)
次にスタンウッドシステムでは良く行われる作業で、アクションストライクレシオを0.4下げてみます(図版12c列)。これはバランスパンチングクロスを半分にカットしてバランスピンの後ろに置くか鍵盤側に貼り付けるという技です。これによってバランスウエイトを下げることが可能です。今回はダウンウエイトとアップウエイトを変えて、ストライクレシオが約0.4減るようにします。レシオが0.4減るときHSWが10gであれば0.4 x 10で4gダウンウエイトとアップウエイトを減らせるはずです。
b列とc列の作業でバランスウエイトが34gまで下がりました。目標値は38gでしたので、今度はこのバランスウエイトを38gに引き上げます。ここでは鍵盤鉛調整を行います。フロントに入っている鍵盤鉛を減らすことでバランスウエイトは重くなります。
鍵盤鉛調整をするということはスタンウッドの公式の左辺の要素を変えるということです。右辺にあるウイペンやハンマーはタッチせず、鍵盤だけをいじります。鉛調整で何をしているかというと、フロントに鉛を入れるとフロントウエイトが増え、その量だけバランスウエイトが減ります。左辺のトータルは変わりません。鉛を抜くとフロントウエイトが減り、その量だけバランスウエイトが増えます。
タッチを軽くするために鉛を入れる、という広く行われているタッチ調整方法はバランスウエイトを減らすことで「タッチが軽くなった」としているわけですが、フロントウエイトが増え、慣性モーメントが増えている、という観点を見逃しています。技術者から見てタッチが軽くなったと信じていても、弾く側は動きづらくなった(=重くなった)と感じてもおかしくありません。そのためにも、タッチの重さを決める2つの要素バランスウエイトと慣性モーメントの両方を見ていくことが大事になるわけです。
さて、先ほどの例に戻ると、図版12dでは鉛調整をしてバランスウエイトを4g増やし、その代わりフロントウエイトを4g減らすことができました。フロントウエイトは24.9gになり、スタンウッドによるシーリング値を大きく下回ることに成功しました。バランスウエイトは2g減り、目標を達成できそうです。鍵盤を軽くすることができるわけですから慣性モーメントも少なくなっているはずです。しかし、これだけではどの位減らせることができるのか見えてきませんので、次に私の慣性モーメント計算表を使って調べていきます。

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