2014年6月24日火曜日

フロントウエイト計算表、慣性モーメント計算表を使い鍵盤鉛の位置を決める

6、中村フロントウエイト計算表、慣性モーメント計算表を使い慣性モーメントの値を見ながら鍵盤鉛の位置を決める。
図版11の中村フロントウエイト計算表を見てください。先ほども書いた通り1列目には測定したフロントウエイト28.9gが、2列目(A列)には計算されたフロントウエイト値26.7gが表示されていました。これらのギャップ2.2gをこれから利用します。
(図版11)中村フロントウエイト計算表(再掲) 

この図版のB列とC列には図版13に示した慣性モーメント計算表のB列とC列からそれぞれ計算されたフロントウエイトが表示されています。これらは表からもわかる通り異なる鉛入れのパターンを持っています。なお、D列には鉛が入らない状態の鍵盤を表示しています。鉛がない状態でもすでにある程度の慣性モーメントを持っていることがわかります。
(図版13)中村慣性モーメント(鍵盤)計算表 
まずB列は最小の慣性モーメントを狙った鉛入れの配置です。大きい鉛をバランスピンに近めに3つ入れています。この配置でフロントウエイト22.7gが達成されています。前章で求めた目標フロントウエイトは24.9gでした。フロントウエイトの実測値と計算値では2.2gの差がありましたので、この目標値24.9gを達成するために必要な計算値はそれより2.2g少ない22.7gになるはずです。つまりこの鉛の配置で計算されたフロントウエイトは計測するとおそらく24.9gになると思われます。鍵盤の慣性モーメント値はオリジナルの50,400gcm2に対して、41,200gcm2と18%の削減をしています。
C列は実際に作業する際に現実的な鉛入れの配置です。一番外側にあった鉛を抜き、2番目と3番目のなまりはそのままに、内側に大きめの鉛を入れてフロントウエイト22.7gを達成しています。慣性モーメント値は44,700gcm2と、オリジナルより11%の削減が見込めるわけで、少ない作業量で一定の効果を上げているのがわかります。B列のやり方ですと既存の鉛は全部抜いて埋め木をした後で、新たに鉛詰めしなければなりませんので時間と材料のコストがかかります。
このように、私のやり方でアクションを調べることによって、実際に何かをする前にだいたいの目標と対応策をシュミレーションできるので、かなりの時間の節約になり方向性の確実さが無駄な労力を削減できます。
蛇足になりますが、これと同じ考え方を使うとアップライトのタッチ改善にも役立たせることができます。たとえば、タッチを重くして欲しいと頼まれた場合、鍵盤のバランスピンから前後等距離に同じ鉛を入れることによって、タッチウエイトを変えずに慣性モーメントだけを大きくしてその要望を満足させることができます。図版14では大きな鉛を前後に入れています。これによって93%慣性モーメントを大きくできています。もちろん、鉛の大きさとバランスピンからの距離を変えることによって自在にその重さの調整をできるのです。このアイデア自体はメーカーでもやっている所がありますが、私の考え方を使いますと、慣性モーメントを何%重くする、とかセクションごとにそのパーセントを調整するとかいう微調整が簡単な計算で可能になるのです。

(図版14) 慣性モーメントを増やすために鉛を両側に入れた鍵盤()とオリジナルの鍵盤
(図版15) 増やしたい慣性モーメント値を位置と重さを変えることによって精密に設定できる。
最後になりますが、図版13の中に「トルク中心位置」と「重力中心位置」という行を見つけた方も多いと思います。これはフランク・エマーソン氏が発表した論文(ピアノ技術者ジャーナル2013年4月号)で提示した数値で、鍵盤鉛の重心位置を鍵盤の長さと比べた比です。弾き手が鍵盤に与える加速度と重力の関係から、この重心が0.429のときにもっとも効果が得られるという結果を導いています。これはまだ提案されたばかりで、検証が必要ですが、私の慣性モーメント計算表ではそれが計算できるので、目安として入れてあります。これから経験値を上げていく段階で見えてくるものがあると期待しています。

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