2013年12月3日火曜日

タッチを変える Page 24: ハンマーの質量調整


ハンマーの質量はさほど大きくはありませんが、Page19の等価慣性モーメントの説明で分かっていただいた通り、角度比の関係でタッチへの影響が非常に大きくなります。

それではタッチが重いからと言って、ハンマーの質量を無制限に小さくしても良いでしょうか?それには2つの問題がからんできます。1つは音色の問題で、もう一つは一台として考えたときのばらつきの問題です。

たとえば1gハンマーの質量を減らすとしましょう。これはおおむね1オクターブくらい上のハンマーの質量と同じです。すなわち、1オクターブ上のハンマーと取り替えることと同じになります。ハンマーの質量は弦を振動させるのに必要で、弦が太く長くなればなるほど軽いハンマーでは良い音が出ません。極端な話、次高音のハンマーで低音弦を叩いても深みも音量も出ないでしょう。ですから、むやみにハンマーを軽くすると音色と音量共に損なわれる危険性があります。一部のメーカーのピアノに見られるように、もともと重すぎるハンマーが付いていたり、削っても0.数グラムくらいであればさほど問題にはならないと思います。

もう一つの観点はハンマーストライクウエイトのばらつきの問題です。例を上げてみます。
これがスマートチャートです。スマートチャートはスタンウッドイノベーションズの登録商標で、ピアノテック社から購入することができます。横軸が鍵盤(左が低音右が高音)縦軸がハンマーストライクウエイトで、小さなブロックごとに0.1グラム刻みで数値が振ってあります。高音にいくほどハンマーが軽くなりますので、図のような曲線になります。

この写真はあるピアノでの実例です。図中黄色の点々がオリジナルのハンマーストライクウエイトです。もちろん使い込んであり、音によって消耗度が違うので重さがばらばらです。紫色が加工前の新しいハンマーのハンマーストライクウエイト、赤色がハンマー質量調整をした後のデータです。ハンマーは一見同じように見えますが、ウッドの密度のばらつきや接着剤の量のばらつきなどによって一音一音意外と揃っていません。特に低音と高音の間ではハンマーウッドの長さが違うので1グラム近くギャップがあるのが普通です。スタンウッドのポリシーでは一台のピアノではなるべくスムーズに揃えます。ですから、ものによっては1g近く質量を減らさないといけないかもしれませんが、別な音では逆に0.2gくらい質量を増やさないといけないかもしれません。

それを考えますと、一台のピアノのハンマーを全部同じように極限まで減量するのはタッチのばらつきや音色のつながりのばらつきにもつながります。われわれはタッチを調整する方法を探っているのですから、軽ければよい、というのではなく個々の音でタッチが良く、全体でもスムーズに揃っているという状態を目指したいと思います。

としますと、どの位の精度でやるかにもよりますが、おおむね0.2グラムから0.7グラム位までのハンマーの質量調整が一般的だと思います。

どのように調整するかは、スライドに上げておきました。減量したいときには、ハンマーの両脇を削る(テーパー加工)、テールを削る(テール加工)、テールの内側曲面を削る(インナーアーク加工)が考えられます。もっと、という人はウッド部分に小さな穴をあけたり、リベットを取り除いたり、ハンマー上部側面のフェルトと木部を削るなどが可能です。逆に重くしたいときにはハンマーウッドにハンマー用鉛を入れると良いでしょう。写真のハンマーには代替材料として真鍮棒を使っています。

ハンマー交換をするのであれば、テールやテーパーが未加工なハンマーを購入し、それらの削り具合を質量調整と合わせて行うとより調整幅が大きく取れて良いと思います。

ハンマーの質量はバランスウエイトと慣性モーメントに影響するわけですが、どのくらい影響するのかを次のスライドで考えます。

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