2013年12月10日火曜日

タッチを変える Page 31: タッチを変えるためにもっとできること


前2枚のスライドで紹介したのは基本的に今ある姿を有効に活用して最大限の効果を得ようとする要素でした。普通の仕事の範囲ではそれらだけでも費用がかさみ、躊躇する顧客も多いものと思います。ここでは、それを超えていくらでもコストをかけられる場合にもっと何ができるのかまとめました。部品を交換し整調や鉛調整などすべてやりなおさなければならないのでコストが高いというのがこれらの特徴となるでしょう。しかしそのコストをかけることでさらに精度の高いタッチを達成することができます。または、ハンマー交換の仕事を請けたときは、これらの技術を使っても極端に時間が余分にかかるわけでもないので、さらに質の高いタッチに仕上げて納品することが可能です。

まず始めはトキワ製作所社製の「マジックホイップ」ウイペンに交換するという方法です。これは特にアメリカの部品会社「ピアノテック」を通じて販売されていますが、日本国内では製作元のトキワ製作所から直接購入できます。この商品にはウイペンアシストスプリング調整機能が付いており、ねじでバランスウエイトを調整することができます。また、ウイペンヒールが接着されない状態で売られていますので、マジックラインを調整しながらアクション比を変更することも可能です。慣性モーメントもそれに応じて調整できることになります。

現行品はスタインウェイ用かメイソンハムリン用のフレンジで供給されます。ヤマハなどで使用する場合でもフレンジを交換すれば使えます。ループコードが付いていますので普通のヤマハのフレンジを付け換えるのではなく、それを自分で改造することが必要です。トキワ製作所では依頼すれば特注で製作してもらえるものと思います。

次はピッチロック社で販売している「タッチレール」に変更する方法です。鍵盤押さえをこの製品と交換します。レールに調整ねじつきスプリングが内蔵されていて、鍵盤を軽く押す感じでセッティングしタッチウエイトを軽減します。交換に手間がかかりますが、いったんセットしてしまえば時に応じてタッチの重さを変えることが可能です。とにかく軽くしたいというだけならレールを付けて調整すればおしまいですが、精密にタッチウエイトを調整したいときは、バランスウエイトをやや重めに鉛調整しておき、その上でこの機能で微調整することになります。直接慣性モーメントを変えることはありません。バランスウエイトを調整するならば、その時に調整することは可能です。

ハンマーを交換するのも高価ですがタッチを変えるオプションの一つになるでしょう。特にハンマー交換する仕事を受注した場合は購入時にその重さをチェックした上で選ぶとタッチウエイトの問題が事前にある程度解消されて全体の作業を楽にするでしょう。ピアノテックではハンマーストライクウエイト加工済みのパーツを販売しているとのことです。

シャンクローラーの位置は0.5mmの違いでもタッチに大きく影響します。これはハンマーの入力側の寸法の問題ですが、アクションレシオやストライクレシオ・等価慣性モーメントすべてに大きく関わってきます。シャンクを交換する修理のときはセンターピンとローラープレート間の寸法を十分注意して選ぶ必要があります。ハンマーはそのままでシャンクだけ交換することはあまりなく、ほとんどハンマーと同時に交換することになるでしょう。同じメーカーであっても時代によってこの位置が違う場合がありますので、シャンクに接着済みのハンマーで交換するときは部品を派注する前に良く調べておくべきでしょう。

WNG社のシャンクはローラーの位置が0.5mm単位で調整できるようになっており、接着されていない状態で手に入ります。自分でこれらを分析した後、適切な位置に自分で接着することになります。ただしこの商品はカーボンファイバー製なのでハンマーの接着にしてもセンターピン交換にしてもやり方が違います。シドニーで会ったこの会社の設計者の話では打弦時の跳ね返り係数も違うので整音にも違う取り組みをする必要があるということでした。

最後のオプションである鍵盤と鍵盤筬の新調は、めったにすることはないと思います。基本は鍵盤バランスピンの位置を変えることによってタッチを変えようと言うものです。アクションレシオやストライクレシオなど変わります。作った後には修正が効きませんので、事前に精密なチェックが必要でしょう。

表には載せていませんが、これの発展形としてスタンウッドイノベーションズではSALA(スタンウッド・アジャスタブル・レバレージ・アクション)という商品も開発しています。鍵盤の支点を動かしてタッチを変えることのできる機構を持っています。これの優れているところは、パンチングを切るの方法とは違い、鍵盤の支点部分を無段階で調整できるところです。しかし、彼のウェブサイトを見ますと、何台かはすでに作られていて特許も取っていますが、積極的には販売していないようです。

タッチの重さは主に2種類の視点からそれぞれの要素を考える必要がありました。その要素であるバランスウエイトと慣性モーメントは、いろいろなやり方で調整が可能で、私の提案するやり方によって行えば2つの要素をそれぞれ考えながら、同時にそれぞれを適当な値に設定して意識的にタッチの重さを作り上げることができるということを紹介してきました。

今回の講義はこの手法の基礎講座で、基本的な考え方と元になる理屈の部分を解説するものでした。次の段階ではこの手法のアップライトピアノへの応用や、一台全体をバランスよく仕上げるために必要な技術、実際の作業におけるノウハウなど、を解説していくことになります。

来年ブリスベーンで予定されている1日研修では、基礎講座の後、実際のアクションを使っての実技研修を行う予定で、現在それに向けた第2段階にあたるスライドショーの作成に取り掛かっています。

現実的にはこのスライドで講義は終わりですが、次のスライドで終わりのスライドと補足のスライド1点をお見せする予定です。

0 件のコメント:

コメントを投稿