これまであまり分析されてこなかったグランドピアノのタッチウエイトですが、スタンウッドの研究を機に最近は次々と新しい研究が発表されるようになってきました。私も独自の研究を踏まえてそこに参加しています。その成果を少しでも広めようとこのブログを継続し展開していくことにしました。 ピアノ技術者向けの内容ですが、一般の方にもわかるような内容を目指したいと思います。
2013年12月5日木曜日
タッチを変える Page 26: 鍵盤の慣性モーメント調整
鍵盤はハンマーやウイペンに比べ単体の慣性モーメントが大変大きい値を持っています。たとえば写真上の鍵盤はスタインウェイのコンサートピアノの真ん中のC音ですが、オリジナルの慣性モーメントは52700gcm2 でした。慣性モーメントの値は計算式(質量×距離2)を思い出していただければわかり通り、距離が二乗で効いてきます。鍵盤はハンマーやウイペンに比べ支点からの距離が比べ物にならないほど長いので大きい値になるのは当然なわけです。
この鍵盤ではハンマー単体の慣性モーメントは1840gcm2 、ウイペンは756gcm2 でしたので、鍵盤の慣性モーメントの大きさは文字通りケタ違いです。何度も述べているように、回転角度の比の関係で弾き手が感じる等価慣性モーメントはハンマーによるものが一番大きくなりますが、鍵盤も調整によってタッチに影響を与えることができます。
写真の鍵盤はすでに慣性モーメント調整済みで、この状態で46800gcm2 と、オリジナルより11%少なくなっています。これは以前にも書きましたが、一番外側の鉛を抜いて、バランスピンに近い側に移し替えた実用的な調整法を採用しています。
外見を気にする顧客では、元の鉛の穴をふさいだ方が良いでしょうが、このピアノではわざとふさいでいません。埋め木の分の慣性モーメント増加を避ける目的です。もっと言えば、バランスピンから遠くを中心に木部に肉抜きを施せばその分慣性モーメントを減らすこともできます。もちろん、やりすぎて強度を落とすのは避けなければなりません。
アメリカのWNG社が製造しているアルミニウム製のキャプスタンスクリューに変えると4gから6g軽くなりますので、それだけでも1000gcm2 程度減らすことができます。付け足しておくと、これによってバランスウエイトも2gから3g減らすことができます。
比較のために写真にはアップライト(カワイK30E)の鍵盤も並べています。この鍵盤の慣性モーメントは6000gcm2 しかありません。何と言っても鍵盤が短いのと、鍵盤鉛が入っていないためこんな小さな数値になっています。アクションを乗せない状態で双方の鍵盤を手で上下して見ると明らかに動きの違い、動くときの抵抗感が違います。もちろん、アップライトの鍵盤は軽く動き、コンサートグランドではやや大きい抵抗を感じるでしょう。
このアップライトの鍵盤にしても短いですが、鉛を入れることのできる領域があり、慣性モーメントを調整できます。別なスライドで詳しく説明しますが、積極的に鉛を入れて慣性モーメントを増やし弾き心地を変えることができるのです。
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