2013年12月8日日曜日

タッチを変える Page 29: タッチを変える方法とその効果(その1)

さて、最後にこの講義で紹介してきた手法のまとめとして、タッチの重さを変えるためにどこを、どのように変えて、その結果どのような結果を得られるか表にまとめました。スライドのスペースの関係から3枚に分けてあります。今日はその一枚目になります。

まず、ハンマーの質量調整です。すでに述べたようにハンマーウッド部を削ることによって質量を減らし、タッチを軽くします。あるいは重くするときはハンマーに専用鉛を挿入し、かしめます。最大で1g程度の調整しかできませんが、バランスウエイトにも慣性モーメントにも大きな変化を及ぼすことができます。作業をするためにハンマーを外して測定・加工しなければならないので、全部をやろうとするとそれなりに時間がかかります。この調整をした後に鍵盤の鉛調整もするのであれば、さらに時間がかかります。従ってどこまでやるかによって費用は変わります。一部の音域でハンマーの質量調整で済ませば少なめで済みますが、全音域で仕込みから鍵盤鉛調整・整調までひっくるめてやるのであれば数日かかり、費用は相当かかるでしょう。

アクションレシオとストライクレシオを変えると、バランスウエイトと慣性モーメント両方を調整できます。これを調整するためには2通りあり、一つはバランスパンチングクロスを切る方法、もう一つはウイペンとキャプスタンの接点を移動する方法です。

パンチングクロスを切る方法では切るか切らないかの選択しかできません。(スタンウッドイノベーションズでは調整式のシステムを販売していますが、これは3枚目で紹介します。)切った場合にはアクションレシオが変わるためアフタータッチが変わりますので、あがきや打弦距離を見直す必要があります。ですが、切る作業と整調作業をやっても数時間でできますので、費用は比較的安く済みます。

ウイペンとキャプスタンの接点を移動するやり方は、ちょっと大変です。ウイペンヒールを切断し高さを調整したうえで接着し直すか、ヒールクロス部をクロスを剥がして平らに加工し、スペーサーで高さを調整した上で新しいクロスを貼るかしなければなりません。この接点を移動するときは鍵盤-ウイペン・マジックラインに沿って接点を動かす必要がありますので、ヒールを手前に移動するときはヒールが高く、奥に移動するときは低くなるはずです。

キャプスタンスクリューは全部抜いてから穴を埋め木し、新しい位置を決めた上で穴あけしなおしてスクリューを植えます。作業としては難しくありませんが、時間はそれなりにかかります。新しい位置は移動可能なダミーのキャプスタンを作り、マジックラインとヒールの位置を見ながら決めます。もちろん、整調がかなり変わりますので、全体にやり直す必要もあります。お察しの通りこのやり方は時間がかかります。中程度からかなり高価な修理となるでしょう。

なお、シャンクローラーの位置を変えてもレシオを変えることができますが、費用が段違いに高くなるので、3枚目にて説明いたしします。

タッチの重さを変える簡便な方法としてキャプスタンスクリューをアルミニウム製に変えるというのがあります。この部品はすでに紹介したとおりWNG社で販売しています。重さが1.6gしかなく、通常の真鍮部品よりも4g~7gほど軽くなります。鍵盤レシオはどのグランドピアノもだいたい0.5くらいですのでバランスウエイトがその半分、2gから4g弱減るわけです。鍵盤の慣性モーメントも支点からの距離に応じて小さくなります。支点から15cmであれば約1700gcm程度減らすことができるでしょう。部品自体が高価なので費用は中程度としてあります。なお、ねじ部が折れやすいので、入れるときには潤滑剤を塗ったり、下穴を大きめにあけなおすなどの工夫が必要です。

0 件のコメント:

コメントを投稿