2013年12月7日土曜日

タッチを変える Page 28: 両側への鉛入れでタッチを重くする


慣性モーメントを考慮に入れたタッチの変更で、アップライトに応用できる技をご紹介します。バランスピンの両側、等距離に同じ鉛を入れるという方法です。写真に写っている上の鍵盤がそうです。この鍵盤には直径15mmの鉛がバランスピンから前後12cmの所に入っています。

釣り合っている天秤の両側に同じおもりを入れても変わらないように、この鍵盤もその釣り合いは変わりません。すなわち、バランスウエイトもフロントウエイトも変わらずに、慣性モーメントだけが大きくなっています。静的なバランスを考えると何も変わっていませんが、動的な抵抗を考えると確実に抵抗が増えていて、動きが重くなっています。

特に写真のようなアップライトで、タッチがスカスカで手ごたえが足りないとか、勝手に動いてしまう感じで「溜め」が足りないので何とかして欲しい、というような顧客には非常に有効な方法です。もちろんグランドピアノにも応用できます。

このアイデア自体は私のオリジナルではなく、一部のアップライトピアノやグランドピアノにすでに使われてきている手法です。私の方法を使うメリットは、どの位の鉛をどこに入れるか、ということを計算表でシュミレーションして数値化できるところです。鍵盤に穴をあけてしまう前に、要求される重さ・抵抗感を計算によって的確に判断して穴の位置や直径を決定できます。

使う鉛は写真にあるような15mmの鉛でなければならないわけではなく、小さいものでも良いわけですし、入れる場所(距離)を変えることによっても増える慣性モーメントが変わってきます。どんな組み合わせであろうと、何%増やす、と意識してやれば何かあっても、そこからの調整もまた可能です。

なお実際の作業では、後ろ側を両面テープで貼り付けておき、手前側はまずは等距離の位置に置いておいて、バランスウエイト鉛測定を行った上で前側の鉛を微妙に前後させてバランスウエイトを揃えると良いでしょう。慣性モーメントも揃い、バランスウエイトも揃い、一挙両得です。鉛の位置を割り出したら、印をつけてから鉛入れ作業をすれば良いわけです。アップライトでここまでのコストをかける顧客はそう多くはないと思いますが、少なくともタッチの問題を解決する手法の一つとして持っていると選択の幅が増えます。

次からの3枚のスライドで本講義のまとめをします。タッチを変えるために何ができて、どんな効果があるのか、を表にまとめて紹介していきます。

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