2013年11月19日火曜日

タッチを変える Page 10: スタンウッドの公式の計算表


スタンウッドの公式の表計算ファイルは3種類のデータで作られています。

  1. 1つは測定したデータを入力する項目:DW,FW,KR,WW、HSW。スライド内では青色で表示してあります。
  2. 次は自動計算されて表示される項目:BW,F,WBW,R。スライド内では赤色で表示してあります。
  3. もうひとつは参考のためにスタンウッドのマニュアルから調べて入力する項目:FWシーリング値とHSW指標。スライド内では表の右端、茶色で表示してあります。
スライド内の例ではDW51g・UW29gを入力することによってBW40gとF11gが得、KR0.53とWW17.1gを入力することによってWBW9.06gが得、それらとHSW10.9gとFW28.9gを入力することによってR5.49を得ています。

この例からまず読み取れることは、バランスウエイトは標準の中でやや重め側の値、フリクションは良好、アクションストライクレシオは普通、ハンマーストライクウエイトはやや重め、といったことです。ですからタッチウエイトとしては問題ない範囲にあると判断することができます。

たとえばこの時点でバランスウエイトが50gある、というアクションは相当重いアクションと言ってよく、逆に30gだったら軽すぎると言って良いと思います。また、フリクションがこの時点で15g以上あるのであればフレンジや鍵盤ブッシングのスティックがありそうですし、10g以下ならゆるすぎる部分があるのがわかります。それに加えてHSWの値からハンマーの重さが重めなのか軽めなのかや、FWの値から鍵盤鉛の量と動きの鈍さや軽快さを推測することができます。

このピアノはあるホールに入っているコンサートピアノで、もう少し軽く、もう少し軽快に弾けると良いのだが、と注文が出ていて何とかしようと分析しました。現状ではすでにスタインウェイの基準をほぼ満たしているのですが、ここからもう少しなんとかしなければなりません。バランスウエイトを減らす方向で静的なバランスを軽くして、後で詳しく述べる慣性モーメントを減らして動的な抵抗も軽減する、という方向性が見えてきます。フリクションは問題ないので、フレンジの硬さや鍵盤はそのままでも大丈夫だということもわかります。

というように、スタンウッドの公式を作ってみることによって、すでにアクションの性格が分かり、そして、改善するための方向性も同時に見ることができます。

参考のために表示してあるFWシーリング値は、スタンウッドによるその鍵盤のフロントウエイトの限界値で、例に使われている真ん中のC音では30.0gです。この音で30gを超えていると鍵盤に鉛が入りすぎていて動きが鈍くなっているおそれがあると判断できます。この例では28.9gのフロントウエイトですので限界値は超えていないものの、もう少し小さいほうが軽快なタッチとなって良いのでは、と考えることができます。
このデータから、フロントウエイトを減らしながら鉛の位置を変えて慣性モーメントを軽減することで軽快なタッチ感を得られそうであるということが読み取れるわけです。

もう一つはHSW指標で、これもスタンウッドによって考案されたのものです。ハンマーストライクウエイトを各音ごとに重さによって分類し、指標1から指標13まで分類してあります。指標13が一番重いハンマー、指標1は一番軽いハンマーです。例に上げたC4音では、10.9gのHSWでしたが、スタンウッドの表からその音の10.9gを探して見ると指標10に当たることが読み取れます。比較的重めのハンマーと言えましょう。ハンマーの重さを軽くしますとバランスウエイトと慣性モーメントを共に減らすことができるので、少なめを意識しながらもハンマーウッドを削ることが必要であると想定することができます。0.数グラム削って指標9くらいに持って行きたいところです。

スタンウッドによるこれらの資料は計測キットに添付されていますが、彼のウェブサイトからダウンロードすることもできます。

  • HSWについてはhttp://www.stanwoodpiano.com/touchweight.htmの中でhammer weight/strike weight standardsをクリックしてください。
  • FWシーリング値はhttp://www.stanwoodpiano.com/first.htmの一番上の部分にあるThe New Touch Weight Metrologyをクリックするとその記事がダウンロードでき、記事の中にHSWやFWシーリングの表が含まれています。(英語の論文ですがそれらしきものがあるのでわかると思います:鍵盤番号とそれに対応する重さの値が並んでいます)

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