これまであまり分析されてこなかったグランドピアノのタッチウエイトですが、スタンウッドの研究を機に最近は次々と新しい研究が発表されるようになってきました。私も独自の研究を踏まえてそこに参加しています。その成果を少しでも広めようとこのブログを継続し展開していくことにしました。 ピアノ技術者向けの内容ですが、一般の方にもわかるような内容を目指したいと思います。
2013年11月20日水曜日
タッチを変える Page 11: バランスウエイトはタッチの重さを示す指標の一つ
講義ではここで2つの自作の鍵盤モデルを希望者に弾いてもらい感想を聞きました。1つ目(モデルA)はバランスウエイトが40gでフリクション10g、もう1つ(モデルB)はバランスウエイトが50gでフリクションがやはり10gに調整したものです。
ダウンウエイトを考えてみますと、モデルAは50g、モデルBが60gとなります。ダウンウエイトを測定するときのように、ゆっくり鍵盤を弾き下ろしたときに感じる重さはそれぞれ50gと60gに感じますので、もっと力を入れないと降りていかないモデルBのほうが重く感じられます。
つまりバランスウエイトの重い軽いがタッチの重い軽いに直結しています。ですからバランスウエイトの数値をタッチウエイトの指標として使うのは合理的なわけです。
人によってはアップウエイトを基準にタッチウエイトを考えます。アップウエイトの重さがある数値で揃っている方が、ダウンウエイトやバランスウエイトよりも弾いている人には重要である、との観点からです。アップウエイトを例えば25gに設定した上でダウンウエイトをチェックして基準に収まらないものはフリクションが大きすぎると判断し、調整していきます。最終的にはアップウエイトが揃っていて、ダウンウエイトも大体の線には入っている、というやり方です。
逆に私の知る2つの有名なメーカーの生産現場ではダウンウエイトを測定して鍵盤鉛調整をしています。フリクションの管理ができているならば、ダウンウエイトを基準にタッチウエイトを調整してもバランスウエイトやアップウエイトはそれなりに揃っているはずです。
私が使っている、バランスウエイトを基準にしてタッチウエイトを揃える、という鉛調整のやり方は以前の記事で書きましたので、詳しくはそちらを見て頂くのが一番だと思います。このやり方のメリットは、フリクションのばらつきがあってもまずは鉛調整が可能で、その後に必要なフリクション調整をしてもバランスウエイトは変わらないと言う点です。きちっとフリクション調整をすればアップウエイトもダウンウエイトも揃ってきます。
たとえば2つの音があって、両方バランスウエイトが40gで調整されているとします。1つは10gのフリクション、もう一つは何かの都合でフリクションが20gだったと考えてみましょう。一つ目はダウンウエイトが50g、アップウエイトが30g、二つ目はダウンウエイトが60g、アップウエイトが20gです。これを弾いて比べたらどうでしょう。2つ目のほうが重く感じると思われます。なぜなら、静かに押したときに二つ目の方が力が必要だからです。そして、鍵盤の戻りも悪いので動きが悪いという感覚になります。
この場合は同じバランスウエイトであっても二つ目の方が重く感じられます。ということはバランスウエイトを基準とすることはタッチの重さの指標に使えないのでしょうか?
大丈夫、問題なく使えますし、アップ基準やダウン基準よりも安定しています。なぜなら、ダウンウエイトとアップウエイトを測定してフリクションとバランスウエイトを求めれば、両方バランスウエイトは同じで、二つ目はフリクションが大きいために重く感じられるというのがわかるからです。それを調整すれば、これらの二つの音はダウンウエイトもアップウエイトも揃い、同じ感触を持つタッチウエイトに持っていけるのがわかります。
アップ基準やダウン基準で鉛調整をした後、フリクション調整をしますとさらにそのずれを修正するための鉛調整を行わなければならなくなります。なぜなら「Page6:バランスウエイトとフリクション」で見たようにフリクションの数値が変わるとバランスウエイトを中心にしてアップウエイトとダウンウエイトが変わってしまうからです。バランスウエイト基準でやっていればフリクションが変わっても基準は変わりませんが、アップやダウンで基準を設定していると、その基準値が変わってしまいますので、もう一度鉛調整の微調整をやらねばならなくなるわけです。
結果としてどのやり方もちゃんとやれば同じ結果になるわけですが、私は、バランス基準でやるのがもっとも効果的で無駄が少ないと思います。
さて、スタンウッドの公式を利用した、静的なバランスから見たアクションの重さの分析はひとまずここまでです。次回からは慣性モーメントのアクション内での役割とその調整方法を見ていきたいと思います。
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