これまであまり分析されてこなかったグランドピアノのタッチウエイトですが、スタンウッドの研究を機に最近は次々と新しい研究が発表されるようになってきました。私も独自の研究を踏まえてそこに参加しています。その成果を少しでも広めようとこのブログを継続し展開していくことにしました。 ピアノ技術者向けの内容ですが、一般の方にもわかるような内容を目指したいと思います。
2013年11月23日土曜日
タッチを変える Page 14: ハンマーアッセンブリーの慣性モーメント
さっそくハンマーアッセンブリーの慣性モーメントの求め方を見ていきましょう。まず、左上の写真を見てください。ハンマーアッセンブリーが4つに切断されています。なお、フレンジはレールに固定されていますので回転部分の一部とはなりません。回転部分でなければ慣性モーメントの計算には入りません。
シャンクがフレンジセンターから4cmごとに切断されています。理論から見るとだいぶ大まかですが、まずはやってみましょう。個々の部分をはかりで量って、それぞれの重心までの距離の二乗と掛け合わせて全部足せば、慣性モーメントが計算できます。どの部分も便宜上重心は形状に関係なく中央としました。
図のようにそれぞれの部分の質量をH1、H2、H3、H4 とすると、重心への距離はそれぞれについて、13.2cm、10cm、6cm、2cmですので、上図にあるとおり、次のような式で表されます。
MoI (H) = H1 (13.2)2 + H2 (10)2 + H3 (6)2+ H4 (2)2
実際に数値を当てはめてこれを計算してみますと、1616gcm2になります。
しかし、実際に作業するハンマーでいちいちシャンクを切って測定することはできません。そこで、簡便な方法で求めるやり方を提案します。それが右の写真のやり方です。実際の作業ではこのやり方で求めます。
このやり方では、ハンマーストライクウエイトとフレンジセンターからハンマーウッドの中心線までの距離を使って求めます。上図にある通り
MoI (H) = HSW x (シャンクフレンジセンターとハンマーウッド中心線間の距離)2
このやり方のメリットは、シャンクを切らなくて良いというのはもちろんですが、ハンマーストライクウエイトはスタンウッドの計測ですでに測ってあり、ハンマーウッドまでの距離は定規で簡単に測れるため、非常に簡単な作業で済むというところです。ハンマーアッセンブリーの質量はかなりの部分がハンマーヘッドにあるわけですから、このやり方で求めた値もそれなりに信頼性の高いものです。少なくとも私たちの仕事には十分であると言えます。
ちなみにこちらで計算した先ほどと同じハンマーの慣性モーメントは1760gcm2になりました。
ちなみに単位は通常物理学で使われるKgm2 ではなく、gcm2 を使います。われわれのやっているのは理論的な計算ではなく、ピアノに限定して使う実務的な計算です。扱う数値としてはこの単位で丁度わかりやすい数値に落ち着くので使っています。もっとも、この単位自体あまり見かけないものですし、そもそも作業上この単位の意味を深く考える必要はありませんので、あまり気にせずに読み飛ばしていただいて結構です。
もう一つ念のため書き添えておきますと、右の写真でハンマーウッドの中心線と緑の線がずれていますが、これはパワーポイントでの製作時に正確に線が乗らなかったためで、距離をあのようにずらして測る、という意味ではありません。距離の計測はセンターピンからハンマーウッドの中心線です。それから言わずもがなですが、ハンマーが斜めに接着されている音域では左右の距離を測って2で割り、ハンマー中心でのセンターピンからの距離を求めます。
次のスライドはウイペンの測定です。
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