2013年11月29日金曜日

タッチを変える Page 20: 鍵盤鉛の位置の違いによるフロントウエイトと慣性モーメントの関係


これまでアクションの重さを決める2つの要素、バランスウエイトと慣性モーメントについて説明してまいりました。バランスウエイトは鍵盤の基本的な動きを決める重さで、スタンウッドの提唱したやり方で求めました。慣性モーメントはアクションの動的な抵抗値で、私の開発したやり方を利用して求めました。

この2つの要素は全く異なる角度からタッチの重さに影響しています。スタンウッドの方法の中には慣性モーメントの要素は入っていませんし、私の慣性モーメントの計算方法にはバランスウエイトは入ってきません。しかしながら全く関連がないかというとそうではなく、それらを結びつける方法があります。その鍵となるのがフロントウエイトなのです。

スタンウッドのやり方ではフロントウエイトを測定し、シーリング値と比較してある程度以上重くならないようにチェックします。すなわち、フロントウエイトが重い、と言うことは慣性モーメントが大きすぎるはずで動きが鈍いだろう、という観点です。シーリング値を見ながらフロントウエイトを設定して、鉛の配置を決めていきます。しかし、慣性モーメントの値を見ながら調整をするわけではありません。経験でパターンを決めているようです。(この辺に関して明確に説明した論文は発表されていません。)

私の慣性モーメント(鍵盤)計算表は基本的には鍵盤の慣性モーメントを算出するための表ですが、この表のデータを利用してフロントウエイトも算出できる優れものです。鉛の配置を変えるとそれに応じて慣性モーメントとフロントウエイト値がそれぞれ算出されます。それを利用するとスタンウッドの公式計算表と合わせてバランスウエイトと慣性モーメント(特に鉛の配置)の値とそれらの関係を意識的に設定するシュミレーションが可能になるのです。

このスライドでは、その原理を説明します。上の図をご覧ください。図では右端にてこの支点があります。てこには質量がないものとします。てこの左側の鉛の配置を変えて3例作りました。

一番上は大き目の鉛が左端の方に載っています。このてこの慣性モーメントは20g×(20cm)と計算できますので、その数値は8000gcmになります。この例でフロントウエイトを求めるには20gを20cm÷25cmにかければ良いのです。20cmの位置にある20gのおもりは計量点25cmのところではその重さで感じる、ということです。つまりこれがフロントウエイトですね。その数値は16gです。

2番目の例を見てください。今度は大と小の鉛が中央付近に載っています。最初の例と同じように計算しますと、慣性モーメントが5700gcmになり、フロントウエイトは16gと計算できます。先ほどの例と比べてみますと、フロントウエイトは16gと同じですが、慣性モーメントは29%減りました。

3番目の例です。これは3つの大きなおもりが支点に近いところに載っています。これも同じように計算します。するとフロントウエイトはやはり16gと先ほどの2つの例と同じになります。慣性モーメントは2920gcmになり、最初の例からみると実に64%減っています。

3つの例ではどれも同じフロントウエイトを持っているにもかかわらず慣性モーメントの値は大きく変化しました。つまり、同じフロントウエイトを実現するための鍵盤鉛の配置は無数にあり、それぞれ異なる(同じになることもあります)慣性モーメントを持つということが分かります。

私の慣性モーメント計算表はこの原理を利用しています。表計算ソフトですので、鉛の位置や重さを入れ替えることによって自在に慣性モーメントとフロントウエイトの値をシュミレートすることができるのです。

次のスライドから実際の計算表を使って具体的なバランスウエイトと慣性モーメントの設定の仕方を紹介していきます。

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