2013年11月27日水曜日

タッチを変える Page 18: 鍵盤手前で感じるアクション全体の慣性モーメント


前回までのスライドでハンマー・ウイペン・鍵盤と個々の部品についてどのように慣性モーメントを算出するか説明してきました。

ここで問題になるのが、鍵盤を弾くときに指に感じる慣性モーメント値はそれを単純に足せば良いのか?というところです。残念ながらそう単純ではありません。ウイペンもハンマーも途中違う部品を経由して鍵盤手前に伝わってくるので、それを考慮に入れなければなりません。

もちろん、その計算方法は先人たちが本の中に書いてくれています。私の読んだ本(「設計者のための慣性モーメント設計計算」川北和明・藤智亮著)では、連結された物体の入力点における慣性モーメント(等価慣性モーメント)は、連結された物体と入力点を持つ物体のそれぞれの角速度の比を二乗した値を、連結された物体の慣性モーメントにかけて求める、とありました。角度を単位時間で表した単位が角速度ですから、2つの連結された物体が同じ単位時間に動いた量を比べるのならば角度で書き換えても同じことですので、上の式では角度を使用しています。

上の図をご覧ください。入力点は鍵盤手前で、入力点を持つ物体は鍵盤です。ウイペンは鍵盤と連結していて、キャプスタンスクリューとウイペンヒールを接点として連結されています。鍵盤が角度θ動いたときにウイペンはθW の角度動きます。回転軸からの距離がそれぞれ違うのでこれらの角度は同じではありません。これらの角度の比は(θWK)で表されます。ウイペンの鍵盤手前での等価慣性モーメントは、ウイペンの慣性モーメントにこの比の二乗をかけた値です。

MoI (W at K) = MoI (W) × (θWK2

ハンマーも同じように考えることができます。ウイペンを中継していますが、結局は鍵盤がθK 動いたときにハンマーはθH  動きます。ですから動く角度の比は(θHK) で表されます。そこで、ハンマーの鍵盤手前での等価慣性モーメントは、ハンマーの慣性モーメントにこの比の二乗をかけた値です。

MoI (H at K) = MoI (H ) × (θHK2

鍵盤手前で感じるアクション全体の慣性モーメントは鍵盤の慣性モーメントとウイペンとハンマーの等価慣性モーメントを足したものですので、次のような式となります。

MoI (アクション全体 at K) =  MoI (K) +  MoI (W at K+ MoI (H at K)
             = MoI (K) +  MoI (W× (θWK)2 + MoI (H) × (θHK)2

この式で良いわけですが、角度を計測するのは困難ですので、計測可能な長さを使ってこの式を書き換えます。その説明は長くなるので、スライド36枚目くらいに参考として載せることにして、ここには結論だけ書いておきます。

 MoI (アクション全体 at K) = MoI (K) + MoI (W at K) + MoI (H at K)
        = MoI (K) + MoI (W) x (LKO/ LWI)2 + MoI (H) x (LWO/ LHI x LKO/ LWI )2
ここで、LKO は鍵盤の回転中心からキャプスタンスクリューの頂上中心までの距離、LWI はウイペンの回転中心とウイペンヒール下端のキャプスタンスクリューとの接点の中心までの距離、LWO はウイペン回転中心とジャック・ローラーの接点までの距離、LHI はローラー・ジャック接点からシャンクの回転中心点までの距離です。
この式に当てはまる慣性モーメントの数値と各距離を入れて計算することによって、ある鍵盤を弾いたときの合計慣性モーメントが求められるのです。

ここまで来るともう勘弁してくれ、という声が聞こえてきそうです。大丈夫です。ここまで込み入った計算はこれで終わりです。次のスライドでは具体的にどのような値になるのか見ていただき、その後はタッチの重さをどのように決めていくのかに進んで行きます。

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