2013年11月28日木曜日

タッチを変える page 19: 鍵盤手前で感じる慣性モーメントの計算例


前回のスライドでは面倒くさそうな計算を紹介しました。実際どんな数字になるのか見てみるともう少し実感が湧くと思うので、あるホールに入っているスタインウェイのコンサートグランドの仕事から真ん中のC音だけを取り出して説明します。

まずは計算式を再掲します。鍵盤手前で感じるアクション全体の慣性モーメントは次のように求めることができます。

MoI (アクション全体 at K) = MoI (K) + MoI (W at K) + MoI (H at K)
        = MoI (K) + MoI (W) x (LKO// LWI)2 + MoI (H) x (LWO// LHI x LKO// LWI )2
一つ一つ考えてみます。

鍵盤は47000gcm2 の慣性モーメントを持っていました。これは鍵盤手前で感じるそのものですから換算する必要はありません。

ウイペンは単体ですと、756gcm2 の慣性モーメントでした。LKO// LWI  の値を計算すると2.41でしたので、等価慣性モーメントを求めると、756×(2.41)2 =4400gcm2 になります。

ハンマーは単体ですと、1758gcm2 の慣性モーメントでした。LWO// LHI x LKO// LWI  の値を計算すると10.5でしたので、同じく等価慣性モーメントを求めると、1758×(10.5)2 =194000gcmになります。

この3つを足しますと、

47000+4400+194000=245400gcm
という答えを得ました。この音を弾くときにはこの大きさの慣性モーメントを手元で感じるのです。それぞれの割合を見てみますと、79%はハンマーによる慣性モーメントで、19%が鍵盤によるもの、そしてウイペンは2%だけの影響を与えているのがわかります。

ハンマー自体の慣性モーメントは鍵盤のそれに比べて4%にも満たないくらい小さな値ですが、鍵盤手前では動いた角度の比の二乗がかけあわされたことによって非常に大きな値になってしまいました。

この例でわかることは、
1、ハンマーの重さは手元で感じる弾きずらさに大きく影響する。
2、ハンマー由来の等価慣性モーメントを減らすにはハンマーの重さ自体を減らすか、角度の比を小さくすることで調整可能である。しかしハンマーの重さは調整できるが、ハンマー自体かなり小さいので、調整できる幅は限定される。角度の比の調整は可能だが手間はかかる。
3、鍵盤はそれ自体慣性モーメントが大きく、調整できる領域も大きいが、その値の変更でタッチに与える影響は、ハンマーほど大きくはない。
4、ウイペンはそれ自体の慣性モーメントが小さく調整できる幅も小さい。しかも調整したことによるタッチへの影響は少ない。

詳しいことは後々で説明するとして、この辺で慣性モーメントのタッチへの影響が数値的に少し見えてきたことと思います。次のスライドからはこれまで説明してきた要素を踏まえて、どのようにタッチの調整をしていくのか説明していきます。

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